ヨハン・クリストフ・ブルームハルト「イエスは勝利者だ」――神の国の客観的現実

ヨハン・クリストフ・ブルームハルト牧師

20世紀最大の神学者カール・バルトや、その盟友トゥルナイゼンなど、多くのキリスト教指導者に深い影響を与えたブルームハルトという牧師がいました。19世紀のドイツの信仰覚醒運動のリーダーです。ブルームハルトは、主イエスの勝利が、私たちの心の中の問題にとどまらない、「客観的な現実」であることを強調しました。

ブルームハルトが牧会する村の小さな教会の近くに、ある少女が引っ越して来ました。彼女のまわりには異常な現象が起き、突然発作で倒れたり、奇妙な音が聞こえたり、椅子がとびあがったり、窓が震えたりしたそうです。しかも、居合わせた人々が一様に経験したため、ブルームハルトはこれが単なる心理現象ではないことを認めざるを得なくなりました。

ある時、彼が少女の家を訪ねると、彼女は恐ろしく身体をよじって痙攣させ、口から泡が流れていました。明らかに悪霊が働いていると思われる恐ろしい状況でしたが、ブルームハルトには何もできませんでした。ある種の怒りを覚えたブルームハルトは、少女の手を無理やり組ませて、意識を失っている彼女に大声で叫びました。「手を合わせて、主イエスよ、助けてくださいと、祈りなさい。私たちはずい分長い間、悪魔の仕業を見て来た。今度は、イエスがなさることを見よう」。すると、まもなく彼女は目を覚まし、彼が言った祈りの言葉を繰り返し、痙攣は全く収まったといいます。

この出来事は、ブルームハルトにとって転機となり、彼は悪霊と戦う方法を学びました。その後も、しばしば悪霊的な働きは強まり、異常な出来事が起こりましたが、主イエスの力が確実に少女に働き、彼が祈ると、彼女の状態が改善することが次々と起きていきます。そしてついに、最後の戦いがやってきます。

少女を襲っていた悪霊の力は、彼女の兄や姉にもおよび、その日は、それまでに経験したことがないほど激しく、「勝利か、死か」という状況でした。真夜中頃、少女の姉の喉から、15分間ほど続いたか、悪霊によると思われる絶望の叫びが発せられました。それは、家が壊れると思われるほどの、強く恐ろしい声でした。しかし、やがてついに、「最も感動的な瞬間」が来ました。朝の2時に、少女の姉は身体をのけぞらせていましたが、少女を支配していた悪霊が、人間の喉から出るとは思えない声で、「イエスは勝利者だ。イエスは勝利者だ」と、吠えるように叫んだと言います。――やがて、悪霊の力は、一瞬ごとに奪われていき、次第に静かになり、動きが鈍くなり、ついにはまったく認めることが出来ないほどに消えていきます。それは、死に向かう人の命の光が消えていくのと似ていました。すでに朝の8時頃になっていました。この後、少女たちの異常な現象は消えていき、再び起こることはありませんでした。少女はブルームハルトと共に働く協力者となります。

しばらく後、ブルームハルトのもとに多くの人が押し寄せて来るようになり、信仰覚醒運動が起き、その中で多くの癒しが起きたといいます。

少女の口から出た「イエスは勝利者だ」という悪霊の叫びを聞いて、ブルームハルトは、「主イエスの勝利」とは、人間がどのような状況にあろうとも、揺るぐことのない客観的な現実であることを確信しました。彼は、この「神の国」の力ある現実に基づいて、全てのことを見て、理解することを学びました 。ブルームハルトは、キリストの権威は、力ある客観的な現実であることを教えています。


聖書との繋がり:礼拝説教での引用

マタイ10:1-8「いなくなった羊を探して」

マタイ10:1-8「いなくなった羊を探して」-「イエスは十二弟子を呼び寄せて、汚れた霊を追い出し、あらゆる病気、あらゆるわずらいをいやす権威をお授けになった。「イスラ…

【参照】
齋藤真行「イエスは勝利者だ:ブルームハルト影響小史」、
井上良雄「神の国の証人ブルームハルト父子」、
E.トゥルナイゼン「牧会学 慰めの対話」p452 訳注26